ライクイットが誕生して約40年。その間、私たちは環境に配慮したものづくりを続けてきました。
昨今、持続可能な社会を作りつつ、経済的な成長も目指す「循環経済(サーキュラーエコノミー)」が注目されています。
循環経済を実現するために、ライクイットではどのような取り組みを行ってきたのか。
今回はライクイット株式会社の代表取締役会長を務める吉川利幸(よしかわとしゆき)に、「循環経済に対する取り組みとその課題」について尋ねました。
吉川利幸:1932年に創業した「株式会社 吉川国工業所」代表取締役社長。及び、同社のグループ企業である「ライクイット株式会社」代表取締役会長。
ライクイットでは、循環経済(サーキュラーエコノミー)を実現するために、様々な取り組みを行っています。その一例としては、環境に優しい素材を積極的に開発・導入していることが挙げられます。素材の開発・導入に関して、最近ではどのような取り組みをされていますか?
いろいろな活動を行っていますが、注力しているのが「CNF(セルロースナノファイバー)」を配合した次世代素材「Nacel®(ナセル)」の研究開発です。
Nacel®は合成樹脂にCNFを混練した新素材です。混練前の合成樹脂より強度が増すだけではなく、リサイクル効率も高くなるなど、非常に優れたマテリアルです。
植物を利用した素材ですので、石油を利用した素材より、原料が枯渇しにくいのも大きなメリットです。まさに「夢の素材」といえるのではないでしょうか。
※CNF:セルロースを主とする植物繊維(パルブ)を、ナノサイズまで微細化した素材。植物由来のため環境負荷が低いという特長がある。
ライクイットの商品の中で、CNFを使ったプロダクトを教えてください。
「スタックアップコンテナー」というPP(ポリプロピレン)でできたボックスがあるのですが、CNFを配合したバージョンも開発しました。
CNFを配合するだけではなく、発泡成形と呼ばれる技術を採用することで、従来製品と比べ約8%のCO2削減に成功しています。
※発泡成形:発泡剤を用いて発泡性のあるプラスチックを成形する方法。一般的なプラスチックより樹脂の使用量を減らすことができる。
直近では2024年に「タイディアップボックス オールバイオ」という商品を発売しました。オールバイオ複合材料を使用したアイテムで、ABS樹脂製品と比べ、CO2を約43%削減することに成功しています。
汎用樹脂と比べ、再生材やバイオマス原料といった素材は扱いが難しく、成形するには高度な技術が求められます。そこで機械設備から見直し、製品化にこぎ着けました。
研究・開発には関係各所にご協力を賜りました。京都市産業技術研究所、奈良県産業振興総合センター、経済産業省、環境省などのサポートを受けながら、「京都プロセス」と呼ばれる手法を用いて、汎用樹脂やバイオプラスチックとCNFの複合材料の開発を実現しています。
※京都プロセス:京都大学と京都市産業技術研究所が共同開発した、パルプ直接混錬法。繊維のナノ化と高融点樹脂への均一分散を同時に達成でき、製造コストの大幅削減を図れる。
天然由来成分を100%使用したオールバイオ複合材料。焼却処理した場合でも、大気中の二酸化炭素の排出量を削減でき、カーボンニュートラルに大きく貢献する。
ライクイットにとって「新素材」は重要な知的財産です。権利を守るためにどのような活動をされていますか?
意匠権・商標権を取得するのが基本ですが、それだけでは類似品の発生を防げません。
いくつかの方策がありますが、ブランドの価値を高めることが、対策のひとつです。ブランドのバリューを高め、「ライクイットのロゴがあるから安心」と生活者の皆様に思っていただくことが重要です。
ライクイットを代表するアイテム「ライクイット 米とぎにも使えるザルとボウル」。「iF Design Award」や「red dot design award」など国際的なデザイン賞を多数獲得している。
ブランドの認知度を高めるための施策としては、著名なデザイン賞に応募するのも有効です。
「グッドデザイン賞(GOOD DESIGN AWARD)」や「Red Dot Design Award」など、知名度が高いデザイン賞を獲得できれば、ブランドの価値は大幅に上がります。
私たちはこれまでに60以上の品種でグッドデザイン賞を獲得しています。このことは、ライクイットというブランドの認知度向上に、大きく貢献してくれました。
Ambienteの会場の「Messe Frankfurt.」。世界最大級のBtoBの国際見本市となっており、出展者数は 4,000 をゆうに超える。(提供:Messe Frankfurt Japan)
海外での認知度を上げるのも大切です。例えば私たちは、ドイツで開催されている「Ambiente」という展示会に、20年以上出展しています。
10万人以上が来場する展示会で、ヨーロッパのみならず、世界中の企業と関係を深めていく。販売店で扱っていただくことで、世界中に「ライクイット」が広がる。――国内だけではなく、国外での認知を広げることは、ブランド価値を高める上で非常に重要になってきます。
循環経済をさらに普及させるために、どのような取り組みを行うべきとお考えですか?
環境活動のプレーヤーは企業、行政、そして生活者です。すべての人が環境への意識をさらに高めていく。これが取り組みの第一歩です。
環境に配慮した素材は、そうでない素材より割高になります。どんなに環境によくても、値段が高いとなかなか売れません。売上が振るわなければ販売店も扱うことを躊躇してしまいます。
しかし、すべてのプレーヤーが10年後20年後のことをもっと考えるようになると、生活者の消費行動や、企業の販売戦略なども、変わってくるのではないでしょうか。
地域共生活動の一環として、本社工場(奈良県葛城市)の近隣にある「葛城市立当麻小学校」の児童を対象に、社会見学を毎秋行っている。こうした環境教育は、循環経済を推進する上で非常に重要となってくる。
「コストと品質、環境性のバランスが取れたものづくりを行う」。我々のようなメーカーは、常にこのことを意識しなければなりません。バランスのいいものづくりを実現させるために、新しい素材や技術を導入していく必要があります。
ほかにも使用する素材を見直す、過剰包装を止めるなど、やるべきことやできることは数多くあると考えています。
地球で暮らしているすべての人が生活者といえます。「一人の生活者」として、環境活動に貢献するにはどうすればいいでしょうか?
循環経済のキモは、文字通り「循環」です。
企業が作ったものを生活者が購入する。生活者が役目を終えたものをゴミとして捨てる。それを自治体が回収する。
そして、自治体が回収したゴミをリサイクル業者に引き渡し、再利用できるプラスチックペレットにしてもらう。この循環をいかにスムーズにするかが肝要です。
すぐに取り組めることとしては、ゴミの分別の徹底が挙げられます。ゴミが分別できていないと、リサイクルした素材の質が下がるといった弊害が生じ、循環の妨げになります。
※プラスチックペレット:使用済みのプラスチックを加工して作る米粒状の素材。プラスチック製品の成形材料として幅広く活用されている。
基本中の基本ですが、「ゴミを減らす」というアクションも重要です。ここ数年でエコバッグが定着しましたが、ほかにもできることはあるのではないでしょうか。
例えば、海外のある洗剤ブランドは、店頭で洗剤の量り売りを行っています。リフィル(繰り返し使える容器)が単体で売られており、それに洗剤を入れて持ち帰るというシステムです。
国内でも量り売りを導入する企業が増えており、今後の普及が期待されています。こういうシステムを活用すれば、確実にゴミの量を減らすことができるでしょう。
現在、持参したタッパーで惣菜を持ち帰れるスーパーは、ほとんどないと思います。しかし、かつて日本では、豆腐屋で豆腐を買う時には、容器を持参して持ち帰っていました。――過去の文化から学べることは多々あるように感じます。
最後の質問です。ライクイットが誕生してから約40年が経ちます。その頃と比べ、日本で暮らす人々の環境意識はどのように変化しましたか?
当時(1980年代)はまだ高度経済成長期の余韻がありました。いわば「作れば売れる時代」で、どんどんものが生産され、使い捨てられていました。
そういう時代でしたから、自然環境への配慮は今よりもはるかに低かったと記憶しています。
翻って今日では、SDGsやCO2削減というキーワードを聞かない日はないほど、環境への意識は高まっていますよね。そういう意味では、40年前とはまったく違うといえます。
「使い捨てがもっともよくない」。私たちは常々こう考えています。
長く使えるものを作るため、ライクイットは丈夫で便利、そしてデザイン性が高い製品を作り続けてきましたし、これからも作り続けていきます。
私たちはこれまで、積極的に先進的な技術や素材を取り入れてきました。例えば、先ほど説明した発泡成形を、日本の生活用品ブランドで取り入れたのは、ライクイットが初めてです。
また、素材開発に関する取り組みが評価され、最近では生活用品ブランドとしてだけではなく、素材メーカーとしても認知されるようになってきました。
今後もプラスチック生活用品ブランド・素材メーカーのリーディングカンパニーとして、10年後100年後と未来を見据えたものづくりを続けていく所存です。